自分で作ったサウナが暑すぎて店長も入れないらしいよ〜笑
行けばわかる。
語彙の引き出しをフル動員してもこれ以上伝えたいことがないし、なんならイチ利用者としては人気になり過ぎても困るのが本音なのだが、「あまみメディア」の公開に際し、私をサウナの底なし沼へと引きずり込んだオールドルーキーサウナ銀座中央通り店の話を欠くことは出来ない。
ここから私のホームサウナへのラブレターを書き記すが、読む暇があったらさっさとビギナー利用登録をして現地に向かうことをおすすめする。
行けばわかるから。
初めてオールドルーキーサウナを訪れた当時の私は、多くの施設を参拝することが喜びのお遍路サウナーだった。そして「あのスペースの工夫はよかった」だの「あと少し水風呂が冷たいといい」だの、感想をツレと語り合い酔っ払う週末を過ごしていた。
どうでもいいが、私はサウナーをタイプ分類しており、お遍路のほかに二郎系・アル中・EXILE・組み込み系などがあるが、たぶん解説する機会はないので想像してほしい。
さらにどうでもいいが、どんな分野でも自称中級者ほど饒舌に勘違いをする(あれ?)
とにかく、数をこなして上達した気になっていた私に待っていたのは、アツアツでキンキンな洗礼だった。
銀座、新橋、汐留などから徒歩圏内の第一京浜と昭和通りが交差する角。
喫茶ポアロではなくチョコザップ®︎が入っているビルのやや薄暗い階段を昇り、空手少女のアテンドではなく顔認証でログインする。
10年間、雑居ビルやアパートに出勤した私でも若干の緊張を感じながらロッカールームに進むと、まず目に入ったのは「店長と貴殿・貴女の固い約束」の貼り紙(一定の啓蒙が完了したのか現在は外されていた)
もしや初見殺しの専門用語が存在していたり、サ活テンポが遅れロットを乱したら退室を命じられるんじゃないかとヒヤヒヤしたが全くの杞憂だった(ただしサウナ室の灼熱っぷりだけは完全に初見殺しだったので前もって共有しておこう)
これらはルールではなく、対等な敬意を示すスポーツマンシップにも似た選手宣誓であることがさまざまな場所から読み取れる。
畏怖するほどに本質的な極上のサウナエクスペリエンスを見ていこう。
脱衣所からすぐのシャワーブースはジムやプールのように、簡易的に目隠しされた立ちスタイルで、つめかえ用のシャンプー類がそのまま逆さ吊りされている。
多少の生活感と引き換えにボトル本体のコストとつめかえのオペレーションを削いでいる。これは最適解ではないだろうか(早速自宅にも取り入れ、億劫なびしょびしょ全裸詰め替えトラップを排除することに成功した)
初めての施設では内臓の慣らしがてら浴槽に浸かり、設備配置や動線の観察を通してその施設の呼吸を掴む時間を設けているのだが、オールドルーキーサウナには湯船がない。
他にすることもないのでなんとなく浴場内を一周しサウナ室へ向かう。
二重扉の狭間の時点で違和感に襲われる。
あれ?まだ外だよね?
おそるおそる内扉の中に入りコンマ数秒後、神経伝達が襲いくる熱気を捉え、予感は的中する。これはアツすぎる。
室温設定が間違っているか、機器不良じゃないかと思ったが、正解は明快にわざと。どうやらバグっているのは運営のようである。
アッツ!!!!!と叫びそうになるのをギリギリ耐えたが、表情筋の配置がおかしく変な顔で口パクになる。
オールドルーキーサウナには象徴的な風景がある。
通常のサウナでは開閉時に熱が逃げることを避け、こぞって扉の対角位置を取り合う傾向にあるが、このサウナでは扉近く、それも下段にポジショニングが集中するのだ。
その理由を大きく3つ考察した。
まず、瀬戸際まで粘ってから脱出に向かっても間に合わないんじゃないかという「素潜り的ビビり」によるもの。
もう1つは「Aroma&Storm」という店舗コンセプトの代名詞である大型ストーブから5分毎に繰り広げられる自動熱波を、常人の皮膚で正面から受け切ることがほぼ不可能なのだ。
最後はシンプルに足裏が熱すぎて歩けないからだ。
美食感・恋愛的なイメージが「アツアツ」という言葉をややマイルドに偏見させるが、そんなに生優しいものではない。「メラメラ」あるいは「グツグツ」という方がお似合いではないだろうか。まさに国内最強。
サ活中、入室の際にすれ違った人がすぐに戻ってきて、スピード感に驚くことが時々あるが、ここでは同じ人と二度出会うことはない。
逃げ出した者がなかなか帰ってこないのも、この施設の特徴の1つだ。
視力と代謝が悪い私は、発汗までに4分、心拍の限界までに4分というルーティンを身体に覚えこませることで、時計を必要としない高精度な時間管理術を修めているのだが、室内に飛び出した確認した時計では5分も経過していない。
どうやらこのサウナは相対性理論が働くらしい。
助けを求めて飛び込んだ水風呂はオアシスなんかじゃなかったことが、もう1つの誤算。
ほぼ一桁温度ならまだ耐えられるが、これまたバグった勢いのジェット水流が羽衣を纏うことすら許してくれない。
アツさはなんとか我慢できたのだが、高低差というよりほぼ落下に近いこの冷たさには思わず喘ぎ声が漏れる(喋っていないからセーフ)
ポーカーフェイスを保ちながらも実は足裏でジェットを堰き止める抵抗をしているのは私だけではないだろう。
急温急冷フリーフォールの往復ビンタを喰らった皮膚感覚は混乱を起こし、これまで感じたことのないハッキリとした痺れに身が包まれる。
一刻も早く座りたいのだが、選べる3種類のととのい椅子と外気浴エリアが私の判断を鈍らせ、ゾンビ徘徊は2周目を迎える。
キマリきった脳では最早なにも思考することができず、オチる前の無意識との境界で過ごすあの感覚で、ただただ宙を眺め続ける(恐らくこの時の顔は私史上最高にブサイクだろう)
洗体・温浴の時間を削いだため5セットは出来るだろうと見積もっていたのだが、2セット目に向かう際の時計はすでに1時間弱経過していた。
やはりこのサウナ、時空が歪んでいるようだ。
ギリギリ3セットこなし、身支度を急ぐ。
細めの血管まで浮き出たスパイダーマンになっていることに、眼鏡をかけて初めて気がつく。
サウナデビュー以来の最高あまみ度更新に感動しながらも、ある疑問が浮かぶ。
「採算とれなくね?」
オールドルーキーサウナには一段上のサウナ体験に加えてもう1つ「ガラガラ」という特徴があるのだが、これを成立できている理由が全くわからない。
サウナ運営には莫大なコストがかかると思われ、利益を上げるには単価・数を増やすか、原価を下げるしかない。
値上げはしたくないし、コストカットも日々苦心している。そうなると残りは「数」を最適化するしかないのだが、そう簡単に制御することはできない。
キャパシティを超えた施設では、裸体行列や椅子取りゲームの敗北者徘徊という光景を見かけることもある。
このジレンマを相互理解で均衡を保つのが普通だと思うのだが、オールドルーキーサウナはDXと徹底的なコスト効率化により根本解決を目指すアプローチを試みている。
つまり答えは、「選択と集中」だ。
現地決済パネル、顔認証による入退室管理、IoTデバイスを活用した機器の遠隔操作などにより、スタッフを常駐させなくて良いシステムを構築しているほか、サウナ設備はロウリュウ・熱波・アロマディフューザーとルーティンが全て自動化され、無人運営を実現している。
無人というと風紀の乱れを想像しがちだが、遠隔からでもリアルタイム音声を放送できるらしく風紀管理もバッチリらしい。
その革新はIT技術だけではない。
先に触れた逆さ吊りシャンプーや湯船の排除、サウナ室のモニターに投影される手作りパワポ感満載のお知らせなど、重視しないものはスパッと手放し、重視するものを磨きあげるミニマリズム的哲学により極限までコスト効率化しているようだ。これが、創業会社を数年で上場させた手腕か。
完膚なきまでに鼻をへし折られたのだが、自称中級者は一切の抵抗心もなくオールドルーキーサウナに無条件降伏をしていた。いい子にしているから、どうかもう一度味わわせてほしい。
それ以来の私は、姑息に飲み会場が新橋になるように仕向けては3時間前行動をするようになった。
これが私のホームサウナ誕生のエピソードである。
最後まで読み切った疑り深い読者も早く行きたい気持ちを抑えられないことだろうが、もう1つだけ忠告しておこう。
銀座・新橋というと、ただでさえアルコールハザードマップが真っ赤なエリアだが、オールドルーキーサウナでのサ活後はいつもより6割増しで酒が美味しい。
鋭敏になった味覚と、水分への欲望が肝臓のキャパシティを錯覚させるが、しっかり錯覚なので気をつけよう。
家族お出かけデーを飛ばして嫁にも無条件降伏をした私が言うのだから、間違いない。
オールドルーキーサウナ 銀座中央通り店
※記事の内容は取材当時の情報に基づいています。