買ってきた薪より、薪割りからしてみるのがいいよ〜
キャベツ生産で有名な群馬県嬬恋。
避暑地で有名な軽井沢から県境を越え北に30分といえば位置の想像がつく人も多いだろう。
明日まで日常に出会わないようにまずは軽井沢で2日間の食料や消耗品を買い込む。
14時のチェックインまで少し時間があるなら道中にポツポツと現れる蕎麦屋に立ち寄ってみるのもいい。
この後のサウナのために満腹にはなりたくはないが、せっかくならその土地の味覚を味わいたい。
相反する感情を同時に満たしてくれるのは天ぷら蕎麦なのではないかと私は思う。
山間道路を進み、標高を結露から感じ始めた頃に、その名の通り「森のサウナ」に到着する。
コテージの前を立ち塞ぐように立つサウナ室は土地の都合ではあるだろうが、どことなく沖縄家屋の「ヒンプン(屏風)」を想起させる。
残してきたタスクだの、人間関係だの、漠然とした不安だの。 付いてきてしまった日常を持ち込ませまいとするサウナ室の側面を抜けて、ログハウス仕立ての室内に入る頃の脳内はすっかりワクワクで満たされている(そんなもんだ)
「自分でサウナを育てる感覚」
事前に素敵なレビューを読んだ通り、このサウナの特徴は薪割りから着火、温度調整まで自分なりのサウナを作り上げることにある。
薪割りに慣れている人はほとんどいないだろう。
支点・力点・作用点・・・。
持ち合わせている常識で道具の構造を推理し、精一杯のへっぴり腰で力を入れてみるが、デスクワークに矯正された身体で薪を割るのは簡単ではない。
うっすら悔しさと不甲斐なさを感じながら失敗を繰り返していくと、十数回に一回、込めたパワーが正しく伝わりアニメのように薪が割れる時がある(これを某漫画では黒閃という)
すっかり没入した面々は無口になるが、黒閃の再現度を高めた者から口が達者になり、苦戦している友人をいじり始める。
男子とは、愚かで愛らしいプライドの生き物なのだとファインダー越しに実感する。
(カメラ担当という傍観に徹した私は薪割りを一切していないことはここで白状しておこう)
必要な薪数を超えたことにも気づかず、明日の筋肉痛を確定させたところでようやく点灯式を迎える。
薪が燃え上がるのを見届け、休息がてら温度が仕上がるのを待つが、なんとなく皆バルコニーに出て視界の水平に位置する煙突を見守る。
煙の勢いが強いと心配になり、煙が少なくても心配になる。
苦労したからか若干の愛着が湧いたのだろう。誰も口にすることはないが、薪を応援している背中がなんとも微笑ましい。
1時間ほどの無声援を送り、1人がそれとなく準備を始めると後に続き皆が水着になる。
薪サウナならではの突き刺さるような熱気が充満した室内は体感で100℃を越えているように感じる。
天然ヒノキのサウナ室には、アロマを垂らさずとも心地いい木の香りに溢れる。
同行者は我先に上段を陣取るが、5分も立たず根をあげ、水風呂へと向かう。
浅間山の天然水を使っているという水風呂は、標高ゆえか想像より一段階冷たい。
体積と同等の水を外に追い出し、数日ぶりのサウナを思い出した身体は一気に仕上がる。
「通りすがり」を想定せず道路向きに立つ休憩スペースには椅子が2脚しかないが、そんなことはどうでもいい。
大胆に床に寝転ぶと、背の高い木々のフレームと高原の広い空が広がる(晴れた夜間には天然のプラネタリウムが見えることもあるらしい)
薪割りに苦戦したせいか5セットも繰り返すとすっかり日が暮れ、周囲は闇に包まれる。
外気浴の延長で心地いい風に当たりながら夕飯はバルコニーで食べよう。
失った塩分を取り戻すようにやや味付けの濃いバーベキューを楽しみ、湯冷めの前兆を感じ始めたら二次会は徒歩10秒の室内で。
明日の朝もう1回サウナに入ってもまだ薪が余りそうだな。
日常を忘れさせてくれた森のサウナに感謝をこめて次の利用者に残しておこうか。
いつもより少し優しい気持ちになっている自分の単純さに呆れてしまう。
寝たら忘れるちょっとした気遣いに溢れる世界になったらいいな。
森のサウナLufque
※記事の内容は取材当時の情報に基づいています。